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 コードネーム「ブラック・ゴッド・ダンス」で目論見通り勝利を収めた真生だったけれど、翌日にはおかんに完膚無きまでに折檻された挙げ句、蔵元町への強制送還が決まった。それでも、真生が勝利を収めたという事実をおかんは渋々受け入れ、条件付きで真生の黒神楽行きを認めたのだった。
 その内容は、真生を蔵元町に縛り付けておけるギリギリの期限まで、おかんによって再教育を実施するというものだった。そして、その結果を踏まえて、真生を黒神楽で自由にさせても良いという流れになるわけだ。
 尤も、そんな展開に落ち着いたことで、もう俺は心配していなかった。何せ、相手は真生だ。猫を被るなり何なり、どうとでも上手くやるだろう。加えて言えば、強制送還には不服の顔付きを見せていた真生も、その条件提示に蔵元町への一時帰宅を受け入れた形だ。
 寧ろ、心配なのは真生が黒神楽での生活を許されてからのことだ。
 真生に力を供給し、単独で支えられるようになるべく、俺には「様々な試練が言い渡される」で間違いないようだった。あくまであの言葉は俺に真生を受け入れさせないためのはったりであって欲しかったんだけど、そんな淡い期待は儚くも無惨に粉砕されてしまった形だ。そして、その件については真生の再教育後に「じっくりと話し合いの場を設ける」という形で、おかんは詳細を教えてくれなかった。「心配するな」というには無理がある。
 恐らく、地獄の修練コース相当の難易度で、且つずっと現実解となる代替案を探し出してくるだろう。
 昨晩、第四駐車場で真生が倒れて意識を失うと、おかんや雪からは凜の影響が直ぐさま途切れた形だ。挙げ句、倒れた真生の影の中からは猛禽類まで姿を現し、俺は「ああ、もう駄目だ」と修羅場を覚悟した。けれど、雪が意識を失った三人を回収しミニバンまで運ぶ作業に移れば、特に混乱もなくおかんの運転で誠育寮まで戻ってきた形だった。
 誠育寮までの移動中は、すっかりおかんはいつもの物腰に戻ってしまっていた。おかんが俺に向ける内容も「有樹君や泰治君と切磋琢磨して、きちんと勉学に励みなさい」だとか「選択や部屋の掃除は横着しないできちんとやりなさい」だとか言った雑談に終始した。そこには「美しい鬼」の片鱗が僅かにさえも除くことはなかった形だ。肝心の真生が意識を失っている状態では「話にならない」とおかんは考えていたみたいだ。
 誠育寮まで戻ってからは、寮に駐車場がなく近隣地域にコインパーキングがないこともあって、おかんは黒神楽駅前にあるビジネスホテルに宿を取って一晩過ごすことになった。尤も、翌早朝には箱詰めの御菓子を片手に、誠育寮の管理人兼寮母さんへの挨拶を兼ねて誠育寮を訪れた形だ。
 意識を失った面々も翌朝には無事全員目を覚ました。
 尤も、有樹と泰治は能力ブーストの反動に苛まれていたようだ。頭痛と眩暈がするだとか、全身が筋肉痛になったように痛いだとか色々と反動について訴えてはいた。それでも、雪が例えとして挙げたものと比較すればまだまだ優しいレベルだと言えただろうか。
 ともあれ、今後の方針が決まったことでおかんは早々に黒神楽へ戻ることを決定する。真生を蔵元町に縛り付けておける期限がどれだけあるのかをおかんは明言しなかったけれど、少しでも早く再教育に取り掛かりたいという意識がおかんからは見え隠れした。
 おかんが誠育寮前にミニバンで乗り付けると、真生との別れがやってくる。
「それじゃあ、またね、お兄ちゃん。今度は正式に黒神楽へやってくるからね。有樹さんも泰治さんも、しばしのお別れです。心配しないでください、必ず舞い戻ってきます!」
 ミニバンの助手席に座った真生からは「必ず戻る」という強い決意が語られた。尤も、運転席のおかんからは直ぐさまそんな甘い見通しに対する鋭い指摘が飛ぶ。
「まだ確約したわけではないわよ、真生! その根性叩き直してたあげるから覚悟していなさいね」
 おかんが真生の黒神楽行きを阻止するつもりかどうかはともかくとして、最悪真生はどんな手段を用いてでも黒神楽に戻ってくる気がした。
 プッシュスタートボタンが押されミニバンのエンジンが始動する。
「それじゃあ、有樹君、泰治君、言規のことこれからもよろしくお願いするわね。後、言規も入学式前に必ず一度実家まで戻ってきなさいね」
 それだけを言い残すと、おかんはミニバンを発車させた。手を振る真生に応えて手を振り替えしていると、ミニバンはすぐに大通りへと抜ける脇道に入っていって見えなくなってしまう。
 見送りが終わったことで、いざ誠育寮の自室へ戻ろうと振り返った矢先のこと。ふと、俺は何とも言えない物足りなさに襲われる。有樹と泰治の二人だけでは、何か足りないような錯覚に襲われたのだ。蔵元町では真生の存在を認識していなかったのだから、この三人で居ることが普通だったはずなのに、いつの間にか真生を合わせた四人の間合いを当たり前だと思うようになっていたらしい。
「黒神楽での新生活は想像以上に大変なことになりそうな気がするんだけど、そんな風に考えているのは俺だけかな?」
「おかんの再教育がどこまで真生を変えられるかだろうな」
 懸念を口にする泰治に、俺はその効果は「ほとんどないだろう」と内心考えながらもおかんの再教育の適否を挙げる。
「良くも悪くも、真生ちゃんは変わらないと思うな。そして、寧ろその方が俺に取っては好ましい」
 有樹からは「変わらないで欲しい」という趣旨の、思わず耳を疑うような見解が漏れた。俺や泰治が有樹にどんな目を向けたかは言うまでもなかっただろう。
 ともあれ、黒神楽でのこれからの新生活はいくつもの波乱を含みそうな匂いがした。
 それでも、きっと楽しいものにはなるだろう。




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